皆様は、ブラックサンダーを食べた事ありますか?
これがブラックサンダーです。
有楽製菓株式会社が作るこのお菓子を、私は、つい最近まで食べた事がありませんでした。
友人知人からは、美味しいとの評判を何度も耳にしていましたが、本物志向が強い私は、たかが駄菓子という見下したような驕りがあったのでしょうか、買う事はありませんでした。
ところが、最近子ども達のお菓子にブラックサンダーがあり、とうとう私も口にする機会が訪れました。
これ美味しいやん!!
驚きましたね。
30円でこの味ならヒットして当然です。
この味・このボリュームで、誰もが財布の事情を気にせずに買える30円という価格設定がヒットの秘密ではないか?と私は勝手に分析しております。
そして、30円で売っているという事は、材料原価は、おそらく5円くらいではないでしょうか?
5円でこの味を出すというのは、至難の業です。
企業努力の賜物ですね。
見習いたいものです。
そして、この企業努力を見習うと共に、私もブラックサンダー作りに挑戦してみようと思います。
有楽製菓が1個当たりの原価5円(税抜き)で作っていると仮定して、私もこれを目指しますが、5円というのは、業務用のルートで大量に仕入れているからであって、家庭で作る場合、基本的にスーパー等で仕入れる訳ですから話が違います。
私は、1個当たりの原価10円(消費税5%込み)を目標に作ってみようと思います。
クックパッド等で調べると、手作りブラックサンダーのレシピが色々と載っていますが、そこに載っているのは、オレオクッキー等を、板チョコで固めて作るパターンばかりです。
この方法で作ると、確実に美味しいものができるでしょうが、原価はとても高くなります。
お金をかければ、ブラックサンダーよりもはるかに美味しいものを簡単に作れますが、安くて美味しいものを作るのが、有楽製菓の企業努力に通ずるものがあると思うので、今回は、それを目指すのです。
ブラックサンダーは「準チョコレート菓子」
さて、ブラックサンダーのパッケージを見ると、「準チョコレート菓子」と記載してあります。
安くて美味しい駄菓子を作るのに、少々長くなりますが、この「準チョコレート菓子」について説明せねばなりません。
「準チョコレート」とは、準チョコレート生地そのものか、準チョコレート生地が60%以上の準チョコレート加工品の事。
「準チョコレート生地」とは、カカオ分15%以上・ココアバター3%以上。脂肪分18%以上で、水分3%以下のもの。
という規格があるみたいです。
昨年私が、生のカカオ豆から手作りしたチョコレートが、カカオ分74%。
準チョコレートの規格は、カカオ分15%以上。
すごい差ですね。
※生のカカオ豆からチョコレートを作った記事は、以下をご覧ください。
カカオ豆からチョコレートを作ろう
私が手作りしたチョコのカカオ分74%以外の残り26%は、全て砂糖でした。
また、準チョコレートのカカオ分15%以外の残り85%は、何かというと、砂糖・粉ミルク・植物油です。
砂糖と粉ミルクは分かりますが、植物油と言われても、何の植物か分かりませんね。
はて、植物油とは何でしょう?
植物油とはこれです。
パーム油です。
アブラヤシという、椰子の実から抽出された油です。
業務スーパーで、1リットル入り158円(消費税5%込)で購入。
チョコレートや、その他全ての食品の原材料に「植物油」と記載されている物の、ほとんどが、これを使用しています。
チョコレートの場合、カカオバターの代用としてパーム油を使用する事によって、大幅にコストダウンできるのです。
ただ、コストダウンと同時に味もダウンします。
ちなみに、ベルギーでは、植物油を少しでも混ぜたら、チョコレートとして認められないとの事。
だからベルギーのチョコレートは、美味しいと評判なのでしょうね。
まあ要するに、「準チョコレート」は、チョコレートをパーム油で引き伸ばしていると考えて差し支えないと思います。
そして、「準チョコレート菓子」は、準チョコレートを使用したお菓子と考えて差し支えないと思います。
また、日本で作られている、準チョコレートでない普通のチョコレートにも、ほとんどパーム油が入っています。
原材料に植物油と記載されているものは、パーム油が入っていると考えて差し支えないです。
理屈が長くなりましたが、準チョコレートについて理解していただけましたでしょうか?
それでは、1個あたりの原価10円を目指してブラックサンダーを作ってみましょう。
まずは、チョコに混ぜるクランブルを焼きます。
薄力粉 150g
ココアパウダー 10g
上白糖 50g
パーム油 50g
薄力粉 40g
上白糖 20g
パーム油 20g
※この材料は、美味しさより安さを追求しています。
美味しさを追及するならパーム油をバターに、上白糖を粉砂糖に変えてください。
サックリとした、それなりに美味しいクランブルになりました。
次は、クランブルをチョコレートで固めます。
チョコレートは、既製品のできるだけ安いものを使用します。
200g入りで258円(消費税5%込み)
一応、スーパーで一番安いと思われる物を買ったのですが、これでも高い気がします。
これは、準チョコレートではなく、普通のチョコレートだから、駄菓子素材として使うには、実際に高いです。
だから、これをパーム油で引き伸ばして、コストダウンを図ります。
パーム油 25g
上白糖 10g
以上を混ぜると、100gのチョコレートが135gのチョコレートに引き伸ばされるという計算です。
バットに広げて冷やし固めます。
冷蔵庫で1時間くらい冷やしましたが…
あれ?
本来なら、パリッと固まっているはずですが、ふにゃっと柔らかいぞ。
チョコレートなら冷蔵庫で1時間も冷やせば、パリッと固まっていて当然ですよね。
柔らかい原因は、パーム油を混ぜてチョコレートを引き伸ばしたためでしょう。
きっとそうに違いない。
そこで、パーム油の事について、また詳しく調べてみると…
パーム油は、もともとは半固形油脂なのだけれど、分別の仕方で融点を調整でき、様々な製品に分けられるという、他の油脂と異なった特徴があるという事が分かりました。
今回使用したパーム油は、「パームオレイン」と言って、炒め物や揚げ物専用に作られた、融点が15℃以下のものです。
融点が15℃以下という事は、15℃以上では液体ということです。
15℃以上で液体になる油などチョコレートには使用できません。
これをチョコレートに混ぜると、当然ふにゃふにゃのチョコレートになります。
市販のチョコレートのように、パーム油を混ぜてカチッと固まった物を作るには、どうするかというと、「パームステアリン」という融点が30~40℃の、カカオバターの代用品として作られたものを使用しなければいけません。
そこで、パームステアリンを仕入れようと調べましたが、スーパーにも、製菓材料店にも売っていません。
アマゾンや、楽天にも、その他通販にも売ってませんでした。
さらに調べると、生産国のマレーシアやインドネシアから直輸入するか、もしくは直輸入している商社から売ってもらうかのいずれか。
ちなみに直輸入するとしたら、トン単位。
商社から買うとしても、数十キロ単位。
それ以前に、商社が個人を相手に商売などしてくれません。
どうやら個人で買うのは、諦めたほうがよさそうですね。
だから、個人で安いチョコレートを作るには、既製品のチョコレートの出来る限り安い物を買う。
仕入れの努力でコストダウンを図るのが現実的でしょう。
まあ、そんな事言っても、すでに作ってしまったのだから、この、少し柔らかいものでブラックサンダーを完成させましょう。
そして既製品のチョコレートでコーティングします。
コーティング用のチョコレートは、もうパーム油で伸ばしません。
少しだけ白いブラックサンダーも作りました。
コーティングは、本来ならもっと薄くするつもりだったのですが、厚くなりました。
パーム油を混ぜていたら、薄くコーティングできたのかもしれません。
けど、固まらないチョコレートじゃぁ話にならないですからね。
チョコレートが厚くなったから、その分美味しくなるのでしょうが、チョコレートの量が増えて原価を押し上げています。
原価計算すると、1個あたり13.79円(消費税5%込み)でした。
目標原価オーバーですが、まいっか。
この白いコーティングチョコは、明治の板チョコホワイトを使用しました。
1個あたりの原価は30.63円(消費税5%込み)かなり高級になってしまいました。
高級感を出すために、缶に入れてみました。
美味しさイナズマ級!!(笑)
冷蔵庫で冷やしている限りは、中の柔らかいチョコレートも少し固いです。
本物のブラックサンダーは、準チョコレートなのでカカオ感がほとんど無いですが、ミルクと砂糖と香料で見事に美味しく作られています。
手作りのこちらは、コーティングのチョコレートが準チョコレートではなく、普通のチョコレートであるのと、それが分厚いために、カカオ感が強いです。
それでもこちらの方が美味しいかと言うと、どうでしょうか。
甲乙付け難いです。
それにしても、ブラックサンダーは、準チョコレート菓子であれだけ美味しいのだから、やはりすごいと思います。
さすがヒット商品、そう簡単に真似できないです。
原価を気にせず本気でブラックサンダーを手作りしてみます。
次は、原価をブラックサンダーの販売価格と同じ30円(税抜き)以内に抑えて、もっと美味しい物を作ってみようと思います。
原価がブラックサンダーの販売価格と同じなら、ブラックサンダーより美味しく作らないと意味が無いです。
作ったものが美味しくないのなら、本物のブラックサンダーを買った方が良いですからね。
けど、前回は13.79円で本物と同レベルの物ができたので、きっと今回は、もっと美味しく出来ると思います。
そして、手作りしたら、たくさんできるから、箱買いするのと同じくらいの量ができますよ。
作り方は以前と同じで、材料をいい物に変えて作ります。
まず、大まかにブラックサンダーを作る手順から説明しましょう。
◆ブラックサンダーを作る手順(中村式)
1.チョコクランブル・プレーンクッキーを焼く
2.チョコクランブル・プレーンクッキーを砕いてチョコレートで固める
3.固まったものをチョコレートでコーティングする
以上の3つの工程で作ります。
では、細かい事は、作りながら説明します。
◆ブラックサンダーのレシピ
バター 50g
砂糖 50g
薄力粉 100g
ココアパウダー 10g
バター 20g
砂糖 20g
薄力粉 40g
溶き卵 5g
【その他の材料】
チョコレート 200g
1.チョコクランブル・プレーンクッキーを焼く
軟らかくしたバターに砂糖を加え、混ぜる。
薄力粉を加え混ぜる。
ココアパウダーを加え混ぜる。
チョコクランブルの生地は、まとまらずにボロボロになりますが、ボロボロの状態で大丈夫です。
同様の手順でプレーンクッキーの生地も混ぜます。
オーブン天板に並べます。
チョコクランブルは、ボロボロのまま均等に広げ、プレーンクッキーは、適当に薄く伸ばします。
チョコクランブルととプレーンクッキーの2種類を、形状を変えて混ぜることで、本物のブラックサンダーと同様に、食感の違いを楽しめるようにしています。
170℃のオーブンで30分焼きました。
これを冷まします。
2.チョコクランブル・プレーンクッキーを砕いてチョコレートで固める
チョコレート100gを溶かし、チョコクランブルとプレーンクッキーを砕いて入れ、混ぜます。
それをクッキングシートを敷いたバットに1cm厚くらいに伸ばし、冷蔵庫で冷やし固めます。
3.固まったものをチョコレートでコーティングする
固まったものを適当な大きさに切ります。
切り分けたものにチョコレートを付けて、クッキングシートを敷いたバットに並べ、冷やし固めます。
チョコレートを付けるのは片面だけで良いです。
適当な大きさにまとめて、クッキングシートを敷いたバットに並べ、冷やし固めます。
そして…
こちらは、規格外の手作りブラックサンダー。
形は、本物とは違いますが、むしろこういった形の方が自然かもしれないです。
バターや、本物のチョコレートを使ってますから美味しくて当然。
ちなみに1個当たりの原価は、24.8円(税抜き)。
規格外の1個あたりの原価は、13.5円(税抜き)。
原価から見ても、味から見ても合格です。
最後に、私のブラックサンダーに対する熱き思いを語る
私が何故こんなにブラックサンダーにこだわるかというと、ブラックサンダーには、学ぶべきところがたくさんあるからです。
今では、安くて美味しいから売れて当然のように思いますが、発売当時は売れ行きが悪く、一度は販売終了になった事もあるのです。
94年の発売当時は、販売ルートが主に駄菓子屋さんばかりで、駄菓子屋さんで30円という価格設定は、ちょっと高く、それまでの主力商品であるチョコナッツスリーが20円だったこともあり、子どもが気軽に買えなかったのかもしれません。
そのまま売り上げが伸びぬまま、発売から1年後の95年には、残念ながら販売終了となりました。
ところが、なぜか九州地区では他の地域よりも売り上げが良かったために、九州では「なんでもっと売らないのか?」という声があったそうです。
そこで、翌96年に販売再開することになりました。
しかし、まだ販路が確立されていませんから、なかなか売り上げは伸びません。
こうした中、当初は子どもをターゲットとしていたのですが、実は若者層に売れている事が分かってきました。
そして、大学の生協に話を持ち込み、商品を置いてもらったところ、狙い通り学生に支持され、次第に売り上げを伸ばし始めました。
さらに、06年「生協の白石さん」で取り上げられて、さらに売り上げを伸ばします。
その販売実績からコンビニチェーンでも取り扱いが始まり、06年の年間販売個数は2000万個を突破。
07年には3000万個を突破。
08年には北京オリンピック男子体操の銀メダリスト・内村航平選手がブラックサンダーが好物であるとメディアに取り上げられ、4500万個を突破。
09年には1億個を突破。
そして、12年には1億4000万個という大ヒット商品となりました。
このヒットの背景には生協の白石さんや、内村航平選手などの幸運もありましたが、それだけでヒットしたわけではありません。
安くて美味しいという商品を開発した事。
また、マーケティングにより的確な販路を開拓した事。
販路を切り開く為の営業力。
まさに中小企業の鑑です。
私もサラリーマンの端くれですから、ブラックサンダーに敬意を表し、大いに学びたいと思います。