低温調理が美味しい理由を化学的に考察する

      2018/08/15

前回、ローストビーフと厚切りステーキを低温調理で作り、驚くほど美味しかった話をしました。
低温調理で肉料理の次元が変わる!まずはローストビーフと厚切りステーキ

低温調理は、なぜ肉を美味しくしてくれるのでしょうか。
世界で最初に低温調理を提唱したのが、肉の魔術師と呼ばれるフランスのアラン・パッサールという料理人と言われています。
アラン・パッサールは、1996年にミシュランガイドで三ツ星を獲得して、その後は野菜料理も極め、とにかく凄い料理人です。

フランス料理では、高度な肉の火入れ技術が要求されます。
肉の火入れ技術についてだけの専門書が何冊もあるくらいです。

お肉という食材は、たいてい冷蔵庫で保存されているものですが、塊の肉は、冷たいままだと火の通りが悪くなるので、調理する前に常温に戻します。
それを例えば、常温の塊肉を、高温のオーブンで短時間焼く事によって表面に焦げ目を付け、30分休ませて、またオーブンで何分焼いて、何分休ませてから切り分けるとか。
そうすると、肉の表面は香ばしく焼けて、肉の内部は低温調理のように柔らかく仕上がるのでしょう。

そういった焼き方が、肉の種類や部位ごとに、またオーブンやフライパンといった調理器具ごとにそれぞれ違う焼き方があるのです。
そりゃ専門書が何冊も出る訳だ。

しかし、低温調理ではそんな技術は一切不要です。

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低温調理の化学

肉の魔術師と呼ばれるアラン・パッサールは、肉の火入れに関して熟知していて、経験から自ずと低温調理という調理法をあみ出したのでしょう。

私のように、肉の火入れについての知識も技術も無いような料理好きでも低温調理を化学的に理解すれば美味しい肉料理が作れます。
いや、化学的に理解しなくても、最後に述べる結論だけ読んでいただければ、美味しい肉料理が作れます。

少々理屈っぽい話になるので、読むのが面倒な方は最後の結論以降を読んでくださっても結構です。

では、理屈っぽい話の始まりです。

肉のタンパク質の変成温度を知る

肉には主にミオシン・アクチン・コラーゲンという3種類のタンパク質が含まれています。
それぞれのタンパク質がどのような温度でどのように変成するかを知れば、低温調理を理解する事が出来ます。

ミオシンの変成温度について

ミオシンというタンパク質は50℃以上で変成します。
変成するというのは、いわゆる火が通った状態になるという事です。
ミオシンが変成すると肉に弾力が出て咀嚼しやすくなり、また、食べると旨味を感じるようになります。
逆に生の肉は、弾力が無いために咀嚼しにくく、旨味をあまり感じません。

例えば、ユッケなんて細かく刻まれた肉に卵黄とゴマ油をごちゃ混ぜにして食べますよね。
あれは、肉を噛み切れないから細かく切ってあるのと、肉の旨味を感じにくいから、卵黄とゴマ油で味付けするのです。

カルパッチョまた、カルパッチョも肉を薄く切り、いろんなソースで味付けして食べます。
これも肉を噛み切れないから薄く切ってあるのと、肉の旨味を感じにくいから、いろんなソースで味付けするのです。

なので、ミオシンというタンパク質を50℃以上で変成させるのは、肉が生でなく火の通った状態となる境目となります。

アクチンの変成温度について

アクチンというタンパク質は、66℃以上で変成します。
アクチンが変成すると肉の水分が抜けて、色が変わり硬くパサパサになってしまいます。

低温調理ローストビーフをいただくローストビーフの中心部がピンク色なのは、アクチンが変成していないからです。
もし、ローストビーフに火を通しすぎたら、アクチンが変成して中心部まで茶色っぽくなり、パサパサで硬くなるでしょう。

なので、アクチンを変成させずに、ミオシンだけを変成させれば火が通ったけどピンク色の柔らかい肉に仕上がるという訳です。

だから50~66℃の範囲で調理すると、ミオシンだけが変成して、アクチンは変成しないので、とりあえず理想的な火入れであると言えます。
ローストビーフは50~66℃の範囲で調理すると、もう十分に柔らかく美味しく出来ます。

しかしまだもう一種のタンパク質であるコラーゲンの変成温度について説明してません。
コラーゲンを知ると、さらに低温調理のレベルが上がります。

コラーゲンの変成温度について

肉には女性の大好きなコラーゲンも含まれています。
いわゆるスジの硬い部分がコラーゲンです。
牛スジ煮のように硬いコラーゲンも長時間煮込めば柔らかくトロトロになります。
硬いコラーゲンが柔らかくトロトロになるのをゼラチン化と言います。

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コラーゲンは68℃以上で変成(ゼラチン化)します。
しかし、68℃以上になると前述したアクチンが変成して硬くなってしまいます。

じゃあ、どないすんねん!?って事になりますよね。

厳密にいうとコラーゲンは、60℃以上ならゆっくりではありますが変成を始めるので、60~66℃の間でゆっくり長時間調理すれば、ミオシンを変成させずにコラーゲンを変成(ゼラチン化)させる事が可能なのです。
ただしゆっくり長時間調理するというのは、具体的にいうと24時間とか、そのくらいの時間です。

一見筋がないように思えるローストビーフのような赤身肉でも、コラーゲンが薄く網のように張り巡らされているので、コラーゲンを変成(ゼラチン化)させると更なる柔らかさが実現するでしょう。

結論

タンパク質の変成と理想的な低温調理の温度図図のように、60~66℃の間でゆっくり24時間調理すればいいのです。

さすがに24時間も60~65℃をキープしようと思えば、私のやっているような、温度計を見ながら火力を調節するという原始的な温度管理では、不可能ではありませんが、やってられません。
低温調理器が必要でしょう。

家電量販店で低温調理器を見る

低温調理器販売コーナー家電量販店の低温調理器のコーナーにやってきました。
価格は1万円台~4万円台です。

低温調理器一つを手に取ってみました。
思っていたよりもデカイ印象です。

水を入れた鍋に、これを突っ込むと設定した温度にキープしてくれるという物です。

確かに便利なアイテムですが、これを鍋に入れたら、鍋の半分くらい占領されてしまいそうです。
あと、台所の収納場所に困る事と、買っても数回使えば飽きるような気がして買いませんでした。

スチームコンベクションオーブンでも低温調理が可能

低温調理器を使わなくても、スチームコンベクションオーブン(略してスチコン)でもできます。
ただし、スチコンは、業務用のものじゃないと60~65℃の温度設定はできないでしょう。

ちなみに業務用のスチコンは何十万もします。
一応、過去に勤務していた飲食店でスチコンを使った経験はあります。
価格に見合う性能はあると思いますが、一般家庭ではオーバースペックもいいところです。
ってかそんなに高いマシン買えません。

実際にスチコンで低温調理チャーシューを作っているラーメン屋さんがある事を、料理の専門書で見た事があります。
きっと柔らかくて美味しいチャーシューなんでしょうね。

私は温度計を見ながら火力を調節するという原始的な温度管理を続けようと思います。

まとめ

  • 肉には主にミオシン・アクチン・コラーゲンという3種類のタンパク質が含まれている。
  • ミオシンは、50℃以上で変成する。
  • ミオシンが変成すると肉に火が通った状態になる。
  • アクチンは、66℃以上で変成する。
  • アクチンが変成すると肉が硬くパサパサになる。
  • コラーゲンは、68℃以上で変成するが、60℃以上でもゆっくりと時間をかけると変成する。
  • コラーゲンは、固い筋だが、変成すると柔らかくゼラチン化する。
  • 結論は、低温調理は、60~66℃の間でゆっくり24時間調理すればいい。
  • 低温調理を行うには、低温調理器や、スチコンを使うと便利だが、温度計だけでも不可能ではない。
  • 温度計を見ながら火力を調節するという原始的な温度管理なら、24時間の低温調理は無理でも、4時間くらいなら私でも何とか温度管理が出来そうです。
    4時間の調理でも、24時間の6分の1ですが、それでも6分の1だけでもコラーゲンを変成(ゼラチン化)させる事が出来ます。

    だからスジも少し柔らかく調理できるんじゃないでしょうか。

    その事を踏まえて、豚肉の低温調理に挑戦してみようと思います。

    続く

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