魚の場合、魚を丸ごと内臓ごと塩漬けにすると、内臓に含まれる酵素の力で魚のタンパク質が分解されて、醤油になります。
あと、魚に付着している何らかの菌も分解に寄与しているみたいです。
魚醤の作り方は、魚を丸ごと塩漬けにするだけですから、めちゃくちゃ簡単です。
そうか、肉醤も同じ要領で、内臓ごと丸ごと塩漬けにすればいいのか!
え?
て事は、牛を丸ごと内臓ごと塩漬けにするって事!?
物理的には可能ですが、我が家ではちょっと、無理です。
鶏くらいなら丸ごと内臓ごと塩漬けに出来るかも知れませんが、それもやりたくありません。
だから、肉だけを買ってきて、それを醤油にする方法を考える訳です。
肉だけでも何日も置いておくと、肉に含まれる酵素の力でタンパク質がアミノ酸に分解されます。
熟成肉がそれですね。
熟成肉は、アミノ酸がたっぷりで旨味があるのです。
けど、熟成肉どころか醤油にしようと思えば、肉が液体になるまで分解されなければいけません。
肉に含まれるだけの酵素では、酵素の量が少ないです。
そこで、米麹の力で肉のタンパク質を分解すればいいのではないかと思いました。
米麹にはタンパク質を分解する酵素が含まれているのです。
肉と米麹を一緒に塩漬けにすれば肉醤になるはずです。
思いついたら早速実験してみるまでです。
鶏肉・豚肉・牛肉それぞれで肉醤を作ってみます。
【肉醤の材料】
ひき肉(脂身の少ないもの) 200g
米麹 50g
塩 60g
水 50ml
100均で買ってきた密閉容器にひき肉・米麹・塩・水と入れました。
混ぜて蓋を閉めました。
このように、鶏肉・豚肉・牛肉と、3種類の肉醤油を仕込みました。
仕込んだのは2019年5月24日です。
これを常温で、なるべく暑い部屋に置いておき、夏が過ぎ、10月頃に完成したらいいなと思いながら、熟成させました。
何しろ初めての事ですから、10月に完成するのかどうかなんて分かりません。
生の肉を、食べる目的で、夏に常温で放置させるなんて、今まで一度も経験ありません。
だから本当にどうなるか分からないのです。
腐りやすい肉を、常温でなるべく暑い部屋に置いておくなんて、そんなリスクの高い事をするのは、低温では酵素の働きが弱いからです。
醤油や味噌系の発酵食品は、暑い時期に熟成発酵が進むのです。
塩分濃度が高いので、夏の常温でも腐敗菌は活動できなくなるはずです。
肉の色がいきなり黒っぽくなりました。
光の加減もありますが、明らかに鮮やかさが無くなりました。
特に牛肉は黒っぽいです。
底の方に水分の層ができました。
肉が分解されたのでしょうか。
また、表面の空気が触れる部分の色が少しだけ黄色っぽく変化してます。
密閉容器の中にガスが発生しているとか、そんな雰囲気は無かったです。
もし、ガスが発生して内圧が高まったら瓶が破裂する恐れもありますが、その心配は無さそうです。
匂いに変化はありません。
生の肉の匂いです。
かき混ぜて、また密閉しました。
これで中身は、また均一になりました。
また底に少し水分の層ができました。
表面には脂が浮いてきて、脂の層ができてます。
鶏肉は脂分が少ない為か、脂の層は特にありません。
そして、またかき混ぜました。
完全に放置したまま夏を越しました。
肉が溶けているようには見えませんが、目標の10月を迎えたので、とりあえず様子を見てみようと思います。
このようになっています。
とりあえず、米麹の粒は完全になくなっています。
それ以外の変化は、外から見てもあまり分かりません。
蓋を開けてみました。
白いカビが生えています。
何の菌か分かりませんが、麹菌であると思うことにします。
そうでないと都合が悪いからです。
カビの部分は取り除きました。
中身をすくうと、このようになっています。
ここから醤油が搾れるのでしょうか?
まずは火入れをしてみます。
鍋に鶏肉醤のもろみを全てぶちまけました。
ドロドロで、鍋にこびりついたら困るので、水を50ml追加しました。
沸騰してきたので火を止めました。
この時点でシャバシャバの液体になってます。
最初はドロドロだったので水を足しましたが、どうやら水は足さなくてよかったみたいです。
キッチンペーパーで濾します。
すると、茶色い澄み切った液体が落ちてきました。
これはまさしく鶏肉醤です!
肉醤の完成です。
鶏肉醤が完成していたので、豚肉醤もきっと完成している事でしょう。
こちらにはカビは生えていません。
火入れをします。
鍋にぶちまけました。
熱を加えると、水を足さなくても、このようにシャバシャバ液体になりました。
これも鶏肉醤と同じ要領で濾したら澄み切った液体になりました。
また、牛肉醤も同じ要領で火入れをしてから濾しました。
めでたく3種の肉醤が完成しました。
それでは味見をしてみましょう。
まさしく醤油の味です。
うまいです!
大豆の醤油とは全く違う味です。
醤油の味としての、旨味と塩分という共通点はありますが、違うのです。
どこがどのように違うかと言えば、難しいなぁ。
旨味は旨味でも、肉由来の旨味ですから、例えて言うならブイヨンスープのような旨味です。
固形ブイヨンの素をそのまま液体にしたような味です。
こちらもブイヨン系の醤油の味です。
肉の臭みとか全くありません。
鶏肉醤は、火入れの際に加水したために、少し薄いですが、こちらは加水してませんので、色も味も濃いです。
濃いというか、醤油として標準の濃さだと思います。
仕込む時に塩の量は、醤油としての塩分濃度を考慮したうえで入れたので、これでちょうど良い加減なのです。
鶏肉醤との味の違いは、鶏肉醤の方があっさり感じましたが、それはただ鶏肉醤を水で薄めたからそう感じただけかもしれません。
これも同じくブイヨン系の醤油の味です。
肉の臭みとか全くありません。
豚肉醤とほとんど同じ味です。
牛肉由来のコクや奥深さがあるような気もしますが、気のせいかもしれません。
キリンラガービールと一番搾りの違いくらいです。
ちょっと違うのだけど、よく似てるという意味です。
それでは、肉醤を使って料理を作ってみようと思います。
まず最初に、冷奴に肉醤をかけていただきました。
画像はイメージです。
実際に冷奴を撮影したのですが、画像を消してしまったみたいで見つからず、仕方なく無料画像を拝借してきました。
画像は実物とは違うのですが、画像どおりの味をイメージしていただいて差し支えありません。
味は、普通の醤油をかけた冷奴と同じでした。
いや、味は違うのですよ。
けど、何の違和感も無く、普通に冷奴として食べてしまったのです。
肉醤は、普通に醤油として使えます。
豚肉とチンゲン菜の炒め物。
豚肉醤で味付けしました。
美味しいです。
大豆の醤油とは味が違いますが、豚肉醤を使っているなんて、言われなかったら気がつかないでしょう。
知らずに食べたら大豆の醤油と鶏がらスープで味付けしたと思うような味です。
大豆の醤油と鶏がらスープを混ぜたような味に感じたのだったら、お湯にそのまま肉醤油を溶かしてしまえばどうなるでしょうか。
ちょっとダシが足りないです。
鶏がらスープを加えて味を調節しました。
肉醤油と鶏がらスープで作った卵スープ。
美味しいです。
肉醤油は、大豆の醤油と同じように使えます。
大豆の醤油と味は違いますが、どちらも美味しいです。
鶏肉醤・豚肉醤・牛肉醤は、味がとても似ています。
この3種の違いは、キッコーマンの醤油とヒガシマルの醤油とヤマサの醤油の違いくらいです。
だから、特に区別せずに使っています。
肉醤を火入れして濾した時に残ったカスがこれ。
分解しきれていない肉なのでしょう。
肉醤の味がする肉で、熟成味もあり、肉味噌みたいです。
これ単独で食べるには味が濃すぎますが、良い味してます。
これも色々使えそうです。
右から順に鶏肉醤粕・豚肉醤粕・牛肉醤粕です。
明らかに色が違いますね。
味も、肉由来の風味が熟成された形で残っており、それぞれに違う味がします。
ギネススタウトと、一番搾り黒生と、マーフィーズアイリッシュスタウトくらい味が違います。
難しいたとえですみません。
似てるけども、明らかに違うという意味です。
キュウリに付けてみました。
もろきゅうみたいなノリです。
美味しいですが、肉醤粕の味が濃くて口の中でイマイチ調和しません。
肉醤粕とマヨネーズを一緒に付けるとまろやかで美味しくなりました。
これはイケます。
肉味噌みたいな味だから、ナスと一緒に炒めたら美味しいのではないでしょうか。
美味しそうに見えますが、ちょっと肉醤粕の味が濃すぎて、ナスと馴染まなかったです。
味噌汁に少し肉醤粕を溶かしてみます。
普通の味噌汁ですが、風味が向上しました。
これはいけます。
ご飯に混ぜてみました。
まあまあでしょうか。
肉そぼろの混ぜご飯みたいですが、肉の風味がするだけで、肉の存在はほとんどありません。
このほかに、中華炒めの隠し味に使いましたが、美味しかったです。
肉醤粕は、料理の味付けにプラスアルファで使うと味に広がりが出ます。
【肉醤油の材料】
ひき肉(脂身の少ないもの) 200g
米麹 50g
塩 60g
水 50ml
【肉醤の材料】
鶏胸ミンチ 600g
米麹 200g
水 100ml
塩 180g
2021年は、この分量で仕込みました。
2021年の5月に仕込み、途中でかき混ぜるなどを全くせずに、11月まで完全に放置しました。
この分量は、2019年に仕込んだものよりも、若干ですが米麹の割合が多くなってます。
その理由は、肉醤カスが発生するのは、お肉のタンパク質を完全に分解できなかったためではないだろうかと思ったからです。
それで、米麹の割合を増やせば、米麹に含まれるタンパク質分解酵素の量も増えるから、肉醤カスも減るだろうと思ったのです。
また、容器は密閉瓶である必要はないですが、蓋のできる容器がいいです。
密閉瓶で、熟成中にガスが発生して瓶が破裂するという心配は無さそうです。
容器の中に空気がたくさんあると、カビの生えるリスクが高まります。
これはカビ対策として、密閉瓶に満タン入れて空気の入る余地を無くしてます。
試してませんが、お肉の表面にラップなどを貼り付けて、空気に触れないようにするのもカビ対策として有効だと思います。
同じ要領で、鍋で火入れをして濾過しました。
そしたら、肉醤カスはしっかり残りました。
米麹を増やしたけれど、その事が肉醤カスを減らすという事は無かったです。
むしろ肉醤カスが増えたのではないかと思うくらいです。
おそらく米麹の量を加減したところであまり変わらないのでしょう。
肉醤カスも炒め物や煮込み料理に美味しく使えるので、発生しても困ることは無いので、上手に使っていくと良いと思います。
美味しい肉醤が出来ました。
キノコの舞茸には、タンパク質分解酵素が含まれています。
舞茸とお肉と塩を混ぜて置いておくと、舞茸のタンパク質分解酵素が、お肉を分解して肉醤ができるのではないでしょうか。
そのように考えて仕込んでみました。
【実験の材料】
舞茸 100g
ひき肉 200g
塩 62g
なぜ、塩62gという中途半端な量なのか、よくわかりませんが、仕込んだ時のメモにそう書いてありました。
何か考えがあってそうしたのか、それとも60gくらいの塩を入れようと思ったら62g入ったからそのままにしたのか、おそらく後者ではないかと思われますが、今は覚えておりません。
これも2021年の5月に仕込みました。
そして、2021年11月まで半年間放置しました。
蓋を開けて中を見てもカビなど生えてません。
うまく行ってるように見えます。
鍋に入れて火入れをします。
最初に蓋を開けた時に匂いを確認するのを忘れてましたが、火にかけると匂いが漂ってくるではありませんか。
その匂いに驚きました。
非常にヤバイ匂いがします。
沸騰してくると細かい泡が出てきました。
ヤバイ匂いも同時に出てますよ。
念のために、十分な加熱を行います。
十分に加熱すれば殺菌されますからね。
火を止めて、少し味見をしてみます。
スプーンでほんの少しすくって…
舐めてみます
あ!?
無理!
醤油の旨味と、塩辛さと、お肉の腐った匂いが口の中で爆発しました。
これは飲み込むことすらできずに吐き出しました。
という訳で、実験は失敗でした。
舞茸で成功させるためにはどうすれば良いのか、考えても分かりません。
舞茸を使わなくても米麹で美味しく肉醤が作れるので、舞茸で成功させる事はもう考えない事にしました。
肉醤は、肉と米麹と塩を混ぜて熟成発酵させるだけで出来ます。
大豆で醤油を作る事に比べると、めちゃくちゃ簡単です!
そして、普通の醤油として料理に使う事ができます。
自家製醤油に挑戦したいと思っている方は、大豆の醤油はハードルが高いので、まずは肉醤からチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
鶏肉・豚肉・牛肉で作った味の差は、ほとんどなかったので、コストの安い鶏ミンチを使うことをお勧めします。
醤油を作るのに脂身は必要ないので、脂身が少なく安い鶏胸肉のミンチがオススメです。
動画ではオトコ中村が自ら出演して肉醤について熱く語ってます。
また、仕込みから火入れ、濾過に至るまでの様子は、動画ならではのビジュアルでお伝えできますよ。
おかげさまでご好評いただき1万回以上再生していただいてます。
動画も併せてご覧ください。