魚醤(ぎょしょう)とは、魚を塩漬けにして発酵させて出来た汁の事です。
日本では、秋田のハタハタで作った「しょっつる」、能登のイワシやイカなどで作った「いしる」、香川の「いかなご醤油」が、日本3大魚醤と呼ばれ、郷土料理の調味料として細々と生産されています。
それよりも、むしろ東南アジアの方が、魚醤文化は盛んです。
タイのナンプラーや、ベトナムのヌクマムなどは、スーパーや輸入食品店などで売っていて、日本3大魚醤よりも簡単に手に入ります。
そして、私の住む京都はどうかと言うと、魚醤の文化はありません。
魚醤を使った日本の郷土料理というものも、口にした事がありません。
魚醤を使った料理と言っても、全くピンと来ません。
ですが、発酵食品が大好きな私は、魚醤作りというものに、とても関心があります。
魚を内臓ごと漬け込んで発酵させると、しだいに液化するというではありませんか。
その時、どんなにおいがするのでしょうか?
ちょっと怖いような気がする、未知の世界です。
発酵食品への探究心と、半分怖いもの見たさも手伝って、未知の魚醤作りに挑戦してみようと思います。
魚醤の作り方
作り方は簡単。
魚を塩漬けにして放置するだけです。
私が仕込んだ分量を紹介しておきます。
イワシ 400gくらい
塩 100gくらい
これが仕込んだ時の状態です。
1日後
塩が溶けて水分が上がってきました。
3日後
ヒノキで落し蓋をしました。
魚が空気に触れている部分が腐る恐れがあるので、こうして空気に触れないようにします。
仕込んでから1ヶ月経過
2015年3月
特に変化は見られません。
熟成が進むと魚が溶けて、形がなくなるはずなんですが、今のところ落し蓋を上から押さえてみても、しっかりとした魚の感触を、落し蓋を通して感じます。
匂いは、ヒノキの爽やかな匂いが強く、生臭さはほとんど感じません。
仕込んでから6ヶ月経過
2015年8月
まだ魚の形は残っていますが、少しもろくなったような気がします。
表面に魚の油が浮いて膜のようになっており、魚に空気が触れないようになっています。
匂いはヒノキの匂いと魚の油の匂いが少しするだけで、生臭さは感じません。
仕込んでから7ヶ月経過
2015年9月
魚の形が少し崩れてきました。
仕込んでから8ヶ月経過
2015年10月
完全に魚の形が無くなりました。
もうこの時点で完成としてもよかったのですが、1年くらい熟成することにしました。
仕込んでから17ヶ月経過
2016年6月
もう完成でしょう。
1年熟成したら完成だと思いながらも、これを濾過する作業のことを考えると、溶けた魚を触って濾過する訳ですから、何だか億劫になり、結局そのまま放置して、1年5ヶ月が経ってしまいました。
また、濾過したらコレを食べなければいけないというのも、気が進みません。
食べたくないなぁ…
自分で作っておきながら食べたくないなんて無責任な事は言えません。
イワシに対しても申し訳が立ちません。
などと自分に言い聞かせて、思い切って濾過作業に取り掛かることにします。
熟成完了、次は濾過
蓋を開けるとこのようになっています。
落し蓋で中は見えませんが、ヒノキの匂いと、魚の化学変化した匂いが混じっています。
落し蓋を外しました。茶色いドロドロの液体と言うかヘドロと言うか何と表現したら良いのでしょう。
魚の化学変化した匂いがプ~ンとしてきました。
スプーンですくってみると、このように、骨は溶けてませんが、骨以外は溶けてドロドロになっているのがわかります。
それにしても…
プ~ン!
凄い匂いです。
この匂いは、ナンプラーの匂いによく似てます。
と言うか強烈なナンプラー臭と言った方が適当か。
このドロドロを濾過します。
1時間くらいで約150mlの澄んだ液体が落ちました。
これを濾過している間、我が家の台所は凄い臭いでした。
換気扇を回していたけれどそんな程度ではこの臭いを消す事は出来ません。
子ども達が
クセー!この臭いは何だ!?
と騒いでました。
これが搾りたての生魚醤。
匂いは強いです。
ちょっと舐めてみましたが、ちゃんと魚醤の味になっています。
大丈夫です。
しかし、濃い。
塩分濃度も濃いし、匂いも強烈です。
それから、魚の油は分解されたのか、全くありません。
それにしても、イワシ400gと塩100gの合計500gを漬け込んで150mlしか取れてないというのは、搾りかすが約350gある計算になります。
ちょっとコスパ悪いですね。
これが搾りかすです。
きっとこの中にも魚醤成分がたくさん入っているはずです。
そこで、約300mlの水で搾りかすを煮出す事にしました。
グツグツと煮ます。
湯気と共にすごい臭いが広がります。
これを濾過します。
約300mlの澄んだ液体が取れました。
味見してみると、しっかりと申し分の無い魚醤の匂いと味がしています。
という訳で、純粋な生魚醤が150mlと、煮出した魚醤300mlが取れました。
結局、両方を混ぜて450mlの魚醤として完成させました。
匂いも味もしっかりした魚醤になっています。
濃さもちょうど良くなりました。
さて、これを使って料理を作るのですが、正直言って私は魚醤の使い方をよく知りません。
作っておきながら変な事を言いますが、魚醤を使うために作ったのではなく、魚がどのように魚醤に変化するのかを知りたかったから作ったのです。
魚醤を使った料理
しかし、結果としてこんなに面白い調味料が完成したのですから、当然これで料理を作ってみたいと思います。
ナンプラーを使った料理を参考に作ってみる事にします。
◆まずは汁ビーフンを作ってみた。
魚醤汁ビーフン
味付けは魚醤のみです。
作り方は超簡単。
鍋に湯を沸かしてエビ・ニラ・ビーフンを入れて魚醤で味付けしただけです。
これがウマイ!!
普通の汁ビーフンは、鶏がらスープに醤油を入れて味を調えるのですが、鶏がらスープ無しでこの旨味が出るなんて驚きです。
◆次は炒飯
魚醤炒飯
これも味付けは魚醤のみですが、実にイイ味が出てます。
◆煮物を作ってみる
豚肉と大根の炊いたん
作り方は、お湯を沸かして、お湯の中に豚肉と大根を入れて、魚醤で味付けしただけです。
あと、味のバランスを整えるために魚醤以外に砂糖を小さじ1杯入れましたが、魚醤以外の調味料は、それだけです。
◆魚醤&レモン焼きそば
この料理は妻が作ったものです。
私は親不知の抜歯後で食事を抜いていたので食べてませんが、美味しかったそうです。
魚醤によって風味がアップしていたそうです。
最後にひと言
自家製の魚醤はものすごく美味しかったです。
売っているナンプラー等とは、全く別の次元でした。
やはり手作りするのが一番なのでしょう。
料理の味付けにおいて、普通の煮物や汁物は、出汁に醤油を入れて味を付けるのに対して、魚醤の場合は出汁無しで、魚醤のみで味が完成します。
すなわち魚醤は、出汁入り醤油という訳で、出汁を取る手間が省けます。
また、炒め物などに使っても、だし成分のおかげで味の幅がグンと広がりますので、これは非常に利用価値が高いです。
なので、再び仕込みました。
イワシ 800g
塩 200g
たったこれだけの材料を1年間放置しておけば勝手に完成しますので、作るのは簡単ですよ。
※この時仕込んだ魚醤は、1年後に、一部くさや液として使われました。
動画もあります
動画では、オトコ中村が自ら出演し、3年熟成させた魚醤をご紹介しています。
おかげさまで1万回以上再生していただいてます。
ビジュアル的に見応えバッチリですので、併せてご覧ください。