以前お伝えした 低温調理が美味しい理由を化学的に考察する の理論を踏まえて豚肉を調理してみます。
その記事を、お読みでない方に結論だけお伝えします。
60~66℃の範囲で24時間くらい低温調理すれば、だいたいどんな肉でも柔らかく美味しく調理できる。
詳しく知りたい方は
こちらを読んでくださいね。
1.低温調理の温度キープについて
2.豚肉の食中毒リスク回避について
3.低温で12時間調理するローストポーク
4.低温で4時間調理するトンテキ
5.低温で24時間調理するスペアリブ煮込み
6.低温で24時間調理する豚角煮
7.低温で2時間調理する豚コンフィ
8.まとめ
低温調理の温度キープについて
最初に紹介した結論を守るだけで、フレンチシェフの高度な肉の火入れ技術なんか無くても、同等かそれ以上のクオリティの肉料理が作れてしまいます。
本当ですよ。
問題は「60~66℃の温度帯をどのようにキープするか。」です。
低温調理器というアイテムを使えば簡単ですが、前回述べたように私は、低温調理器を買わない事に決めました。
また、業務用のスチームコンベクションオーブンを使っても簡単に低温調理ができますが、機器が高価すぎて買えません。
また、調べてみると、ヨーグルトメーカーでも60~66℃で保温できるみたいですね。
ヨーグルトメーカーは、5千円未満のものもあり、買おうかどうか、ちょっと心が動きましたが、容量が小さく、小さい肉しか入れられないために、結局買いませんでした。
私は、温度計で温度を計りながら火力を調節するという原始的な方法で低温調理を実践する事にします。
豚肉の食中毒リスク回避について
「豚肉はしっかり火を通して食べないといけない。」と、よく言われます。
はい、その通りです。
豚肉の低温調理では、しっかり火が通ってないのではないか?と疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
このへんの事もしっかりと説明しておかなければいけませんね。
厚生労働省の定める豚の食肉の基準では、肉の中心部の温度を、63℃で30分間以上加熱するか、これと同等以上とされています。
だから大丈夫です。
いや、ちょっと待って、厚生労働省の基準は63℃で30分以上、オトコ中村の提唱する低温調理は、60~66℃で24時間だから、もし、63℃未満だったら危ないのでは?
たとえ63℃未満でも、62℃なら、加熱時間を約1.6倍の50分にすれば大丈夫です。
61℃なら、加熱時間を、さらに約1.6倍の80分にすれば大丈夫です。
60℃なら、加熱時間を、さらに約1.6倍の2時間にすれば大丈夫です。
60℃でも、2時間どころか、24時間加熱するのだから大、大、大丈夫!です。
温度が下がれば加熱時間を長くすればいいのですが、その根拠を説明するのは、あまりにも難しい話になるので詳しく理解できておらず、私にはその説明ができません。
とにかく加熱温度が上がれば加熱時間が短くなり、加熱温度が下がれば加熱時間が長くなるという事です。
そもそも、60℃のお湯ってどんなに熱いか知ってますか?
お風呂のお湯が60℃だったら熱すぎて1秒も入ってられません。
そんな環境で2時間も居たら菌は死んでしまいますよ。
世の中には熱に強い菌も居ますが、少なくとも食中毒を起こす菌は、それでほぼ死滅するのです。
調理前に、よほど不潔な環境に肉を置くとか、肉をカビだらけにするとか、そういう事をしなければ、少なくとも普通に料理をすれば、60℃を2時間で食中毒のリスクは回避できます。
それでも心配な方は、肉の中心部分が、必ず63℃以上になるようにして30分以上加熱してください。
低温で12時間調理するローストポーク
ローストポークを作る動画もあります。
動画も併せてご覧ください。
国産豚肩ロースの塊です。
肉の重さに対して1%くらいの重さの塩と、好みの量のコショウを、肉の表面になすりつけてから袋に入れます。
お湯を張った鍋に豚肉の入った袋を沈めます。
袋を沈めて、水圧で袋の中の空気を抜いて真空のような状態にします。
ジッパー付きの袋を使う場合は、袋の中の空気を完全に抜いてからジッパーを閉じます。
私はジッパー付きの袋は高いから、安いポリエチレン袋を使っています。
ポリエチレン袋の耐熱温度は90℃くらいなので、低温調理に使ってもなんら問題ありません。
袋の口を鍋の縁に引っ掛けて、その上から鍋の蓋をすることで、密閉のような状態にしています。
そこまでしなくても、袋を沈めて真空のような状態にしたら、袋の口が開いていようと閉じていようと差はありません。
鍋底部分は、直接火に当たる部分なので、高温になります。
底網を敷いて肉が鍋底に当たらないようにします。
底網が無ければ、代わりに皿でも何でもいいので鍋底に沈めて、肉が鍋底に当たらないようにします。
63℃くらいまで加熱したら、鍋の蓋を完全に閉じず、少し開けた状態にします。
火力はこのように蛍火にします。
室温にもよりますが、この状態で放置しても、だいたい63℃をキープできます。
このまま一晩放置。
そして、火をつけたまま一晩放置します。
火のそばから離れないという料理の原則がありますが、私はこの場を離れ、寝室で寝る事にします。
このくらいの火力では、さすがに火災のリスクは考えられませんが、皆様も自己責任で行ってください。
翌日の昼頃まで放置してました。
温度を計ると、67℃くらいまで上がっていましたが、豚肉の低温調理でこのくらいの温度なら、全く問題ありません。
理想の調理時間63℃で24時間です。
現時点で12時間ですから、24時間の半分ですが、温度が少し高くなったので、十分柔らかくなっている事でしょう。
もう完成という事にしました。
ミオシンというタンパク質は、変成し美味しくなり、アクチンというタンパク質は、温度が上がったから少し変性したかもしれませんが、あまり変成せずに柔らかいままで、十分に低温調理としての美味しさが出ているはずです。
筋の部分のコラーゲンも柔らかくゼラチン化しているはずです。
63℃から12時間かけて徐々に67℃まで上がったという低温調理の結果は、理論的にはそういう事になります。
理論よりも、実際に食べて確かめてみましょう。
袋の中には、肉からの水分が出ています。
この水分は、豚肉の旨味たっぷりスープなので捨ててはいけません。
肉の水分に、醤油大さじ1と、みりん大さじ1を加えて煮詰め、ローストポークのたれを作りました。
仕上げにフライパンで豚肉の表面にサッと焦げ目をつけます。
もうすでに低温調理によって、肉の内部まで火が通っているので、表面に焦げ目をつけるだけで良いです。
強火で1分裏返して1分、側面も簡単で良いのでサッと焦げ目を付けます。
こうする事で、焼いた香ばしさが加わり、味が完成します。
ローストポークをスライスします。
断面は少ししか見えませんが、ほんのりピンク色に仕上がっています。
ピンク色であるという事は、アクチンが変成してないので柔らかいという事です。
ローストポークに手作りのたれをかけていただきます。
柔らかく仕上がっています。
もともと筋の少ない肉なので、筋の存在も感じないで、脂身もトロトロで本当に柔らかく美味しくいただく事ができました。
低温で4時間調理するトンテキ
国産豚ロース塊です。
肉の重さに対して1%くらいの重さの塩と、好みの量のコショウを、肉の表面になすりつけてから袋に入れ、お湯に沈めて真空のような状態にします。
温度管理は先ほどのローストポークと同じ要領で、66℃くらいまで加熱して火を消し、30分放置、また66℃くらいまで加熱してから1時間放置、という具合で合計4時間調理しました。
完成した肉を切ってみると、断面はきれいなピンク色になっています。
いい感じです。
表面に付いている黒い斑点は、ブラックペッパーです。
フライパンでさっと焼き、表面に焦げ目を付けます。
4時間低温調理したトンテキ。
めちゃくちゃ美味しいです。
赤身の部分は、とんでもなく柔らかいです。
脂身と赤身の境目に筋っぽいコラーゲンの膜がありましたが、少し柔らかくなっていました。
赤身の中にも、薄く網のようにコラーゲンが張り巡らされているのですが、それは4時間の低温調理でゼラチン化していると思われます。
だから赤身がとんでもなく柔らかいのでしょう。
筋っぽい部分は、4時間の低温調理では少し柔らかくなる程度でした。
完全に柔らかくトロトロにしようと思えば、もっと長時間の調理が必要です。
けど、24時間低温調理をすれば、筋の部分もトロトロに柔らかくなるという事が、理論上の事だけでなく、現実の事として実感できました。
やはり24時間の低温調理を試してみなければ気が済まなくなってきました。
低温で24時間調理するスペアリブ煮込み
国産のスペアリブを買ってきました。
スペアリブって、たまに食べるけど、いつも硬いです。
スペアリブを柔らかく食べた事がありません。
これを24時間低温調理すれば、柔らかく食べられるのではないでしょうか。
最初に表面をサッと焼いて焦げ目を付けます。
袋に醤油大さじ2、砂糖小さじ1、生姜粉末1gを混ぜた調味液と一緒に入れます。
生の生姜を使う場合は、すりおろし生姜を小さじ1入れるといいです。
鍋に沈めて真空のような状態にします。
こうすると、放っておいても調味液が肉全体に行き渡ります。
そしてお湯の温度を66℃くらいまで加熱してから…
火力を、これくらいの超弱火にします。
これは直径3cmくらいの小バーナーです。
鍋の蓋は完全に閉めずに、少しずらして閉めます。
そしてこのまま1晩放置しました。
翌朝、温度を計ると63℃でした。
よし、理想の温度をキープできた!
火力を超弱火にして、鍋の蓋を少しずらして閉めると、63℃くらいをキープできる事が分かりました。
これで低温調理器がなくても大丈夫です。
ただし、室温によって調理温度も左右されます。
今は夏で室温は30℃近くあります。
冬になると、室温は10~20℃くらいでしょうから、室温によって火力と蓋の閉め方を工夫しなければいけません。
それでも、火力や蓋の閉め方を工夫するだけで低温調理が出来てしまう事が分かったので、低温調理器を買わなくて正解でした。
24時間経過しました。
肉から水分が出て、調味液が薄まってます。
調味液は、鍋でドロドロになるまで煮詰め、スペアリブ煮込みのたれにします。
24時間低温調理したスペアリブ煮込み。
確かに柔らかく美味しく出来ました。
人生で食べた中で、最高に柔らかいスペアリブである事は間違いありません。
味も美味しいです。
食べる前には、骨の周りの肉がペロリと簡単に剥がれるというのを期待してましたが、実際は、骨の周りは頑丈に肉がくっ付いていて、ベリベリと剥がして食べました。
そこが期待はずれでした。
けど、骨の周り以外は、全く問題なく柔らかかったです。
低温で24時間調理する豚角煮
国産豚バラ肉塊です。
最初にフライパンで表面を焼いて焦げ目を付けます。
醤油大さじ1、砂糖3g、生姜粉末1gくらい(もしくは、すりおろし生姜小さじ1)と一緒に袋に入れます。
鍋に沈めて、火力を超弱火にして、鍋の蓋を少しずらして閉めて、63℃くらいをキープしながら24時間調理します。
24時間経過しました。
肉から水分が沢山出ています。
この水分は、ドロドロになるまで煮詰めて、たれにします。
切ってみました。
断面は、理想的なうっすらピンク色に仕上がっています。
24時間低温調理した豚角煮。
では、いただきます。
パクッ…
ん?
何じゃこりゃ!?
口の中で溶けて無くなってしまいました。
驚きの口溶け感!!
まるでゼリーを食べているようだ!!
美味しすぎます!!
脂身の部分は完全にゼラチン化しています。
赤身の部分は、もちろん柔らかく仕上がっています。
理想的な形で低温調理が成功したようです。
やったー!!
低温で2時間調理する豚コンフィ
コンフィとは、オイル煮の事です。
コンフィは、油を多く使うので、日本の家庭料理には向きませんが、今まで紹介したビニール袋に入れて湯煎する方法だと、使うオイルの量も少なく、手軽にできます。
国産豚片ロースの塊に、肉の重さに対して1%くらいの塩とコショウをふり、肉の重さに対し10%くらいの重さのラードと共にビニール袋に入れます。
使う油は、ラードでなくても、サラダ油でもオリーブオイルでもいいです。
お湯に沈めると、ラードは溶けて、肉はラードの中で煮るのと同じ状態になります。
今回は、65℃くらいで2時間くらい調理しました。
調理完了、冷めるとラードが固まってこのようになります。
この油は、次に炒め油として使います。
豚の旨味成分がにじみ出た油なので、他の料理に使っても美味しいですよ。
肉を1cmくらいの厚さに切り、フライパンで表面に軽く焦げ目を付けます。
もうすでに中まで火が通っているので、表面に軽く焦げ目を付けるだけでいいです。
低温調理した、豚肉のコンフィ。
ものすごく柔らかく美味しいです。
低温調理の柔らかさだけでなく、オイルで煮た柔らかさもあるのでしょう。
両方の柔らかさがあり、これもまた今まで違う驚きの食感でした。
まとめ
- 60~66℃の範囲で24時間くらい低温調理すれば、だいたいどんな肉でも柔らかく美味しく調理できる。
- 食中毒のリスクを避けるために、肉の中心部の温度を、63℃で30分間以上加熱する。
- 肉の中心部の温度が60℃でも2時間以上加熱すれば大丈夫。
- 国産豚肩ロースのローストポークは柔らかく美味しくできた。
- 国産豚肉のトンテキは臭みも無く美味しかった。
- 火力の調節と鍋蓋の閉め加減の調節によって60~66℃の範囲で保温する事が可能。
- スペアリブは、24時間低温調理したら柔らかくなったが、骨がペロリと剥がれるくらいまでは柔らかくならない。
- 豚バラ肉を24時間低温調理したら、驚きの口溶け感で美味しすぎ!
- コンフィは、低温調理の柔らかさとオイルで煮た柔らかさの両方の柔らかさがある。
色んな低温調理法を紹介しましたが、低温調理すれば驚くほど柔らかくなるという事です。
温度管理も、何度かやれば馴れると思いますので、難しく考えずに挑戦してみてください。
くれぐれも、火が通ってない状態では食べないように注意してください。