シードルを酢酸発酵させてりんご酢を作る【りんご酢後編】
りんご酢の作り方【後編】です。
前編では、りんご酢を作る流れ、それからリンゴジュースをアルコール発酵させてシードルを作る所までご説明しました。
前編をご覧でない方は、まず前編からご覧ください。
後編では、いよいよりんご酢を仕込みはじめます。
【目次】
1.りんご酢を仕込む
1–1.りんご酢の材料
1–2.酢酸発酵について
1–3.【重要】酢酸発酵終了の見極め
1−4.酢酸発酵が終了したら打つ次の手
2.りんご酢の完成
3.(失敗例)産膜性酵母について
3−1.産膜性酵母を発生させた時の処置
4.りんご酢の味
5.まとめ
6.動画で説明
りんご酢を仕込む
アルコール13%くらいのシードルが出来上がったので、とうとうりんご酢を仕込みます。
りんご酢の材料
【りんご酢の材料】
アルコール13%のシードル 300ml
水 300ml(水道水でも可)
市販の酢 300ml
りんごの種1個分
材料は、要するにシードルと水と酢を同じ割合で混ぜて、りんごの種を入れるという事です。
りんごは、適当にカットして、皮を剥いて、種を取り除いて、皮と、実と、種に分けます。
皮は、捨ててください。
実は食べてください。
そして、りんごの種には酢酸菌が住んでるんで、これを使います。
大きめのタッパーに、シードル、市販の酢、水、りんごの種を入れます。
大きなタッパーに入れるのは、酢酸菌は表面に浮いて酢酸発酵するために、表面積を広くして発酵の効率を上げるためです。
酢を入れるのは、有害菌である産膜性酵母の発生を抑えるためです。
蓋は、空気の通り道を少し残すために、軽く閉める程度にしておきます。
酢酸発酵には20〜30℃くらいの温度が適しています。
仕込んだのは2月で、まだ寒いですから、暖房が効いた暖かい部屋の冷蔵庫の上に置いておきました。
酢酸発酵について
酢酸発酵が行われているかの見極めについては
前回の穀物酢の作り方で、5つの項目で判断すると説明しました。
【酢酸発酵が行われてるかの見極め方5項目】
1.酢酸菌膜の有無
2.水滴の有無
3.密閉したら蓋が凹むか
4.匂い
5.味
この5つの項目は正しいです。
正しいですが、さらに研究が進んだ結果、判断基準の考え方がちょっと変わったので、新しい見解をご説明します。
1.酢酸菌膜の有無
酢酸菌は液面に浮いて薄い膜を形成して酢酸発酵を行います。
液面に酢酸菌膜が有るかどうかで、酢酸発酵してるかを判断するのですが、酢酸発酵していても膜が薄くて見えない場合もあるので、曖昧な判断基準ですけど、これも1つの判断基準です。
2.水滴の有無
容器の内側に水滴がついてるかどうかで判断します。
この図ように、酢酸発酵は酢酸だけでなく、水も発生させます。
この事は、もう何度もご説明した通りです。
この発生した水が水蒸気となって容器の中をただよって、それが容器の内側に水滴となって付くので、それで酢酸発酵してるかどうかを判断できます。
理屈はそうなのですが、仮に酢酸発酵してなくても、水分が蒸発してそれが水滴となって付く事もありますし、気温や湿度などの関係で水滴が付かない事もあるので、環境によって左右される判断基準です。
だから水滴の有無も参考程度にしかなりません。
3.密閉したら蓋が凹むか
再び酢酸発酵の図をご覧ください。
酢酸発酵は、アルコールと酸素を結びつけて、酢酸と水に分解しますから、酢酸発酵には酸素が必要なのです。
だから、もし容器の蓋を密閉していたら酸素が消費されて蓋が凹みます。
けど、蓋は密閉せずに空気の通り道くらいは残しておくことを推奨してますから、あまりこれで判断することはないでしょうけど、これも一つの判断基準です。
4.匂い
ちょっと蓋を開けて匂いを嗅ぎます。
酢酸発酵が進めば、アルコールの匂いが弱まってきて、酸っぱい匂いが強まってきます。
5.味
スプーンなどですくって味を見ます。
酢酸発酵が進むにつれてアルコールの味が弱まり、酸味が強まってきます。
一番頼りになる判断基準
以上、5つの判断基準がありますが
今のところ、私の経験では、一番頼りになる判断基準は、4の匂いと5の味での判断が頼りになると感じています。
【重要】酢酸発酵終了の見極め
酢酸発酵終了の見極めが重要です。
ここは、穀物酢の作り方の記事でも説明が足りなかった所で、ここが一番難しい所です。
実は、酢酸発酵は、終了しません。
いや、酢酸発酵は終了しますが、発酵は次の段階へ進んでしまいます。
酢酸菌は、全てのアルコールを酢酸に変えたら、今度は酢酸を分解するのです。
酢酸菌は、酢酸と酸素を結びつけて、二酸化炭素と水に分解します。
この反応を、特に何と呼べばいいのか分からないので、酢酸の酸化とでも言います。
酢酸発酵が終了したら、酢酸の酸化が始まるという事です。
酢酸が酸化すると、酸味が無くなって屁みたいな酢になってしまいます。
さらに、完全に酸化すると、ただの水になってしまいます。
だから、アルコールがほとんど分解された時点で、すぐに次の手を打たないといけません。
それでは、どのようにアルコールがほとんど分解されたと判断するのでしょうか。
それは…
匂いと味で判断するしかありません。
匂いを嗅いで、味見してみて、アルコールの風味もなくなり、完全に酢になったと思ったら、次の手を打ちます。
酢酸発酵が終了したら打つ次の手
次の手とは、具体的に言いますと3つあります。
- 密閉容器に入れて空気を遮断する。
- 冷蔵庫に入れて冷やす。
- 火入れをして殺菌する。
1.密閉容器に入れて空気を遮断する
酢酸を分解するのにも酸素が必要ですから、こういった密閉容器に満タン入れると、容器の中に残る空気はわずかですから、その程度の空気の量なら考慮に入れなくてもいいでしょう。
2.冷蔵庫に入れて冷やす
忙しい時などは、タッパーごと冷蔵庫に放り込んでおいて、機会を見て密閉容器に入れることも出来ます。
また、密閉容器でも満タンじゃなく半分くらいしか入れなかったら、容器の半分は空気になりますから、その空気の量は無視できません。
そんな場合は密閉容器でも冷蔵庫で保存した方がいいです。
3.火入れをして殺菌する
60℃以上に加熱すると酢酸菌は死滅するので、発酵は止まります。
けど、せっかくだから、酢酸菌が生きた生の酢をいただきたいので、火入れはあまりお勧めしてません。
りんご酢の完成
なんと、たった3日で完成してしまいました。
仕込んでから3日経った時に、そろそろ酢酸発酵が始まった頃だろうと思い、確認してみました。
そしたらもう酸っぱくなってました。
だから早速密閉容器に移しかえます。
このように満タン入れて密閉すると品質を保つ事が出来ます。
それにしても、たった3日で完成するとは、驚きました。
まあ、こちらは成功例でした。
(失敗例)産膜性酵母について
もう一つ別のレシピで作った物が、ちょっと失敗しました。
お酢作りで発生させてはいけない産膜性酵母を発生させてしまいました。
その後、うまくリカバリーできたので、産膜性酵母がどんな物なのか、もし発生させた場合のリカバリー方法をご紹介します。
【(失敗例)りんご酢の材料】
アルコール13%のシードル 300ml
水 300ml
酢酸菌が生きている生の酢 300ml
このレシピは、前回ご紹介した穀物酢のような、酢酸菌が生きている、生の酢がある場合、それを使ったレシピになります。
りんごの種は使いません。
このレシピで失敗しましたが、このレシピ自体が悪い訳ではありません。
何が原因で失敗したのかは、よくわかっておりません。
これが上記の配合で11日間発酵させた物です。
水滴もバッチリ付いてるので、酢酸発酵が進んでいると判断しました。
匂いと味を確かめました。
アルコールも無く、酸味も無いと感じました。
この時点では、アルコールが分解されて、酢酸も分解されて、ただの水になってしまったと思ったのです。
捨てるわけにもいかないので、何か料理に使おうと思い、ワインの入ってた瓶と酢の入ってた瓶に移し替えました。
それをまた別の機会に味見してみたら、アルコールの味をしっかり感じまして、酢酸発酵が進んでないという事に気付きました。
すでに説明した事ですが、酢酸発酵してるかどうかを匂いと味で判断しなければいけないと説明しております。
酢がばっちり完成してたら匂いと味を間違うなんてことはあり得ません。
しかし、酢酸発酵してるかどうか微妙な時は、味覚と嗅覚を研ぎ澄まさないと、間違った判断をする事もありますね。
というわけで、また酢酸発酵させるためにりんごの種と共にタッパーに移し替えました。
そこから2週間経ったものがこれです。
表面に何か白いモヤモヤが浮いてますね。
これは、産膜性酵母です。
酢酸菌膜ではありません。
酢酸菌膜だったら、もっと薄く有るかないかわからないような膜を作ります。
このように粉っぽく白い塊になって浮いてるのは産膜性酵母です。
これを発生させるのはいけません。
産膜性酵母は、アルコールと酸素を結びつけて酢酸エチルというシンナーのような物質を作ります。
酢酸エチルというのは、酢酸と名前は似てますけど、除光液にも使われる物質で、本当にシンナーみたいな物質です。
そしてシンナーのような匂いがします。
これは、まだ産膜性酵母が特に活発に活動してる訳でもなかったので、シンナー臭は、言われてみれば感じるという程度です。
この液体には、アルコールも含まれているので、アルコールに少し酢酸エチルの匂いが混じった匂いがします。
酢酸エチルが、食品にごくわずかの量入るくらいなら、香りが豊かに感じられる程度のものです。
だから、この液体の匂いも少し豊かに感じられる程度で、この程度では、鼻で嗅ぎ分けるのは至難の業です。
目視で産膜性酵母の存在に気付きました。
産膜性酵母の発生は、目視による確認で早期発見ができると思います。
このように、お酢作りにおいて、このように産膜性酵母をのさばらせたまま置いておいたら、お酢の香りが豊かになる程度じゃ済みません。
全くお酢にならないどころかシンナーの出来損ないになってしまうでしょう。
もうすでに産膜性酵母が優位に働いてますから、このまま放っておいて酢酸菌がここから巻き返すことは、まずないでしょう。
直ちに適切な処置を行わなければいけません。
産膜性酵母を発生させた時の処置
適切な処置とは、まず、混ぜて産膜性酵母を沈めてやります。
産膜性酵母は、液面に浮いて酸素を消費してるから、沈めてやると、酸素の供給が途絶えて、活動できなくなります。
そして、お酢を入れます。
産膜性酵母は酸に弱いので、お酢を入れる事で産膜性酵母をやっつける事が出来ます。
お酢を入れて、全体の酸度が1.8%以上になるようにします。
酸度を計る術は無いので、酸度の測定は何となく感覚で行います。
入れる量が分からなかったら、とにかく多めに入れたらいいです。
それで、新しいりんごの種を入れて、古いりんごの種を取り除きました。
そしたら、2日後にお酢が完成しました。
ちょっと酸味の弱い酢になりましたが、産膜性酵母が発生してもこのようにリカバリーする事が出来ました。
まあそんな訳で、失敗して産膜性酵母を発生させたおかげで、産膜性酵母について詳しく説明することが出来ました。
最初に紹介したレシピで仕込むと、産膜性酵母はほとんど発生しないと思います。
それでも発生した場合は、このように処置を行ってください。
りんご酢の味
完成したりんご酢を飲んでみました。
酸っぱいです。
当たり前ですね。
そして、りんごの香りがします。
旨味もあります。
原料のリンゴジュースには、りんご香料が含まれてたので、りんご由来の香りなのか、香料の香りなのか、両方なのかわかりませんが、心地良いりんごの香りがするお酢です。
また、旨味ですが、リンゴジュースに含まれる糖分以外の成分は、酢の中に残っていますから、それらの味なのだと思います。
まとめ
- りんご酢の仕込みは、大きめのタッパーに、シードル、市販の酢、水を同じ割合で入れ、りんごの種を入れる。
- 蓋は軽く閉める程度にしておき、20〜30℃くらいの環境で置く。
- 酢酸発酵が進んでいるかの判断は、1. 酢酸菌膜の有無 2. 水滴の有無 3. 密閉したら蓋が凹むか 4. 匂い 5. 味 の5項目で行う。
- 酢酸発酵が終了したら、次は酢酸が酸化を始めるので次の手を打って酸化を止める。
- 産膜性酵母が発生したら混ぜて酢を入れ、新たにりんごの種を入れる。
- 手作りのりんご酢は、りんごの香りがして旨味がある。
お酢づくりシリーズの次回は、ワインビネガーの作り方をご紹介したいと思います。
お楽しみにお待ちください。
動画で説明
動画では、オトコ中村自らが講義のようにりんご酢について熱く語ってます。
併せてご覧ください。